日向に隠れて君を待つ - 桜野佑乃
内容紹介
陽くんが物語を綴らなくなって三ヶ月ほどたった。
パソコンの前に座るのは持ち帰ってきたお仕事をする時だけで、そのほかは絶対に座らなくなった。
その分私のことを構ってくれる時間が増えたことに関しては、万々歳なのだけれど。なんだか寂しいような、物足りないような。陽くんなのに陽くんじゃないような、なんとも言えない違和感が胸につっかえている。
『書けなくなってしまった』と言う彼に、私ができること。
それはきっと、私が彼の代わりに物語を紡ぐことだと思った。
現実と小説とその中間にある私たちの関係。
小説家志望の彼と、小説家志望の私。
言葉の海にどっぷりと頭まで浸かったのは、いつの頃だっただろうか。
この感覚は、きっと物語を紡いだことのある人にしか通じない。
私は彼の痛みが嫌という程わかってしまうけど、きっと彼にも私の痛みが全て筒抜けなのだろう。
「『書かない』のではなく、『書けない』のです」
私が思うにこの期間は、物書きにとって一番の怪物で、きっと物書きを続けている以上ずっと自分の影の中に身を潜めているのだと思う。
この怪物は時折姿を現して、『こんにちは』と愉快そうに私たちの紡ごうとする言葉を食べていくのだ。
(『日向に隠れて君を待つ』)
表題作『日向に隠れて君を待つ』を含む四作品を収録。
<収録作品>
『日向に隠れて君を待つ』・・・第13回星の砂賞 優秀賞
『人間缶詰』・・・第6回ショートショートコンテスト 審査員特別賞
『メアール』・・・第5回童話と絵本コンテスト 審査員特別賞
『蝸牛の誘鬱』・・・第11回星の砂賞 高校生部門 優秀賞
編集部より
筆者は投稿サイト星の砂で「高校生部門」と「一般部門」の二部門で最高賞である「優秀賞」を受賞した実力者。初めて投稿された『蝸牛の憂鬱』を読んで「これを高校生が書いてきたのか……!」と思わず舌を巻いたことをいまでも覚えています。
童話、ショートショートと形態を問わずに紡ぎ出される珠玉の作品を、ぜひお手にとってください!