コマドリの夢 - 神在琉葵
内容紹介
「ねぇ、リシャール……次はこの曲にしない?」
彼女は、微笑みながら、僕の前に楽譜を差し出す。
僕は差し出された楽譜を手にしながら、思わず苦笑した。
「アリシア……少し休んだらどう? さっきからもう何曲歌ったと思ってるの?」
「さぁ……何曲だったかしら?」
アリシアは、どこかおどけた様子で小首を傾げる。
「さっきので七曲目だよ」
「なんだ、たったそれだけ? それっぽっちであなたはもう疲れたって言うの?」
「僕なら平気さ。ただ、君の喉が心配になっただけ……」
「私なら大丈夫よ! 歌えば歌うほど、心が弾んで、身体中に元気がみなぎってくるようだわ……!」
「僕だってそうさ! ピアノを弾いてると、それだけで幸せだ……! ……そう……僕はピアノさえ弾けたら、それだけでとても幸せなんだ……」
第11回星の砂賞審査員特別賞受賞作品
『コマドリの夢』
僕の弾くピアノの旋律に、美しいアリシアの歌声が重なる……
そんな穏やかな日々を、僕は失いたくなかった……
編集部より
ピアノさえ弾ければそれで幸せだ。
ただそれだけを願っていたリシャールだけれど、忙しない天才ピアニストとしての日々に疲弊してしまったリシャール。
ある日、旅先で崖から転落してしまった……。
リシャールの願い、アリシアとの日々、友人として支えてくれるジャンとの友情。
儚く切ない小さな物語。