電子書籍「ネット文庫星の砂」

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「払いの聖女 ―悪役令嬢が無双したあとの世界で生きていく―」 - 寺町朱穂

払いの聖女 ―悪役令嬢が無双したあとの世界で生きていく― - 寺町朱穂

第3巻 内容紹介

 イーディスは手を休めることなく、くすくすと笑った。
「こうしてね、シロツメクサを編んでいると、あの人のことを思い出して」
「あの人って?」
「いつもお世話になってる人でね、お礼にシロツメクサで指輪を編んだの。あの程度でお礼にはならないけど……喜んでくれて嬉しかった」
「お姉ちゃん、そんな人いた?」
 アキレスが怪訝な声を出した。
「それって、孤児院の誰か? どんな名前?」
「名前は――……名前、は……」
 ここまで口に出したが、言葉が途切れてしまう。
 お払い箱にされた自分を見捨てず、生きる術を与えてくれた人なのに、名前がどうしても思い出せないのだ。名前だけではない。顔どころか容姿すら朧げな輪郭しか浮かんでこない。わらにもすがる気持ちで記憶の糸を懸命に辿ろうとするも、恐ろしいほど靄のかかった思考が邪魔をする。
「名前が……思い、出せない……」
 気がつけば右手を額に当て、顔をしかめていた。

 
 イーディスは幸せな日々を送っていた――。
 孤児院の庭で、大好きな弟のアキレスと二人で花を編んだり、会話を楽しみ、おいしいお菓子を食べたり……。しかし、それは偽りの幸せだった。イーディスは正体不明の魔族によって、聖女であった記憶を封印され「夢の監獄」に囚われてしまっていたのだ。
 夢の中のイーディスは違和感に気づきながらも、強制的に眠らされ、またすべてを忘れさせられる。その繰り返しだった。
 現実世界では、ウォルターやエドワードたちが彼女を眠りから覚ます方法を模索していた。
 イーディスも夢の世界で過ごすうちに「ここにはいない、誰か」を思い出し、この世界からの脱出を試みるが、それを知ったアキレスが豹変する。イーディスは夢から覚めることができるのか⁉
 一方、王都ではクリスティーヌ以外の国王含めた貴族たちが魔族に憑依され、クリスティーヌの処刑計画が実行されようとしていた。
クリスティーヌの視た未来が訪れてしまうのか、それとも、未来を変えることができたのか!?

〝お払い箱になった聖女〟の物語もクライマックス!
 書き下ろし番外編にはウォルターとイーディスの甘酸っぱいストーリーを収録。
 

第2巻 内容紹介

 イーディスがぼそぼそと語れば、ウォルターはやれやれと首を振る。
「お前はなぁ……もっと、自信を持て」
 そう言いながら、わしゃわしゃと頭を撫でてくる。
「普通の人間は魔族だけを払うことなんて器用なことできねぇし、クリスティーヌの奴にも無理な芸当だ。それに、まだその力に目覚めてから三カ 月も経っていないだろ。これからだ、これから!」
 彼の声色は底抜けに明るかった。裏表のない言葉はすとんと胸に落ち、沈んでいた心も浮上する。
「……ありがとうございます」
 気がつけば、イーディスの頬も緩んでいた。
「ウォルターさんは褒め上手ですね」
「事実を言っただけだっての。おだてても なにも出ねぇぞ」
 ウォルターは鬱陶しそうに口にしたが、頬がわずかに赤く染まっているように見えた。そっぽを向いた双眸は非常に獰猛で、嫌そうに歪めた口元からは牙が光っているというのに、照れている姿はどことなく可愛く見えてしまう。イーディスは思わず、くすっと微笑みが零れてしまった。

 
 イーディスは魔族を払う力に目覚め、聖女として一歩ずつ成長するも、歴代の聖女たちの成した偉業や実績に比べ、自分がいかに何も成しえていないか悩む日々を送っていた。
 そんな中、神官のエドワードからの依頼で、魔族に憑依された貴族を見つけるため、王都の夜会にウォルターと共に参加することになった。
 ところが夜会のために訪れた王都のピルスナー家で、天井裏に隠れていた密偵に襲われかけ、不思議な忠告を聞いた。もしかすると魔族絡みなのかもしれないと考えたイーディスとウォルターは手がかりを探すため、イーディスが育った孤児院へ向かった。
 孤児院の焼け跡で偶然再会した昔馴染みから話を聞くが、ますます謎は深まるばかりだ。疑問を抱えたまま、イーディスはウォルターと夜会に参加することになるのだが……。

 信頼という形でゆっくりと心の距離を縮めていくイーディスとウォルター。番外編にはイーディスを気にかけるウォルターの密かな日課の様子を収録。
 

第1巻 内容紹介

「こんなところでなにしてんだ?」
 イーディスが、背後から迫る男に気づいたのは。
「だ、誰?」
 イーディスは弾かれたように振り返って、息をのんだ。
 そこにいたのは、ヒトではなかった。
 見たところ二十代後半のようだが、一般的な青年男性よりも一回り背が高く、鍛え抜かれた頑丈な身体は日に焼け、野性的だった。荒々しい黒髪の隙間からは、小さな角がのぞいている。赤い両眼は獰猛な鷹のように鋭く、対峙しているだけで身体の震えが止まらない。


「……私、どうして呼ばれたの?」
 イーディスは孤児院で唯一の肉親である弟と貧しく暮らしていたところ、突然、王城に連れてこられた。
 イーディスの魔力は微々たるものしかないのに、神託とやらがくだり、どうやら聖女だったことが判明する。聖女として魔王を倒すため必死に訓練に明け暮れ、やっと中級魔法が1~2発打てるようになったところで旅に出発した。
 ところが、旅に出たのはいいものの、同行するメンバー達が全員有能であり、イーディスは全く役に立つことができず、いつもから回ってしまう。
 特にパーティーに参加している侯爵令嬢クリスティーヌが非常に優秀で、「彼女のほうが聖女ふさわしい」「足手まといだ」とメンバーにさんざん馬鹿にされつつも、案の定、クリスティーヌの活躍で無事魔王を討伐することができた。
 そのうえ、帰国してみると自分の命より大切に思っていた弟は亡くなっていた。イーディスは誰からも「頑張ったね」と一言褒めてもらえることもなく、帰る場所も用意されていなかった。弟を失った悲しみと旅の疲れが癒える間もなく、まるで厄介払いをされるかのように、「一番の色狂い」「人食い伯爵」と呼ばれている辺境伯の妻になれと、粗末な花嫁衣裳を着せられて荷馬車で追い出されてしまう。
「馬鹿みたい……」
 こんなところから逃げ出して一人で生きてやると、イーディスは窓から飛び降りた。絶望的な現実からの脱出を夢見て――。

 これは、禁忌とされる未来視をしたクリスティーヌのせいで〝お払い箱になった聖女〟イーディスの物語である。

編集部より

 人気作品がミーティアノベルスに登場!
 孤児院で暮らしていたイーディスは、突然「聖女」に認定された挙げ句、魔王討伐に駆り出されます。
 無理やり連れ出しておきながら周囲からは足手まとい扱いされていたイーディス。同行していた侯爵令嬢・クリスティーヌが魔王を討った後、評判の悪い辺境伯の妻として放逐されてしまいます。
 わけもわからず連れてこられ、足手まといだと馬鹿にされ、役目が済んだら、見ず知らずの男に嫁がされる。
 こんな現実からは脱出しようと、イーディスは屋敷の窓から飛び降ります。
「(お)払い(箱)の聖女」の物語はどこへ向かうのか――

 電子書籍版では限定の書き下ろし短編を収録! WEB版を既読の方もぜひお楽しみください!
 

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