心に傷を負ったイケオジ公爵は声を失った幸薄令嬢だけに甘い - 柳葉うら
内容紹介
背は父よりも高く、鍛え上げられて引き締まった体躯で白い礼服を着こなしている。白銀の髪を綺麗に撫でつけており、一筋の乱れもない。
切れ長の目の色はアイスブルー。吸い込まれるように見つめる私を、彼も見つめ返した。
研ぎ澄まされた刃のような美しさに魅せられる。彼こそが私の夫となる人物――シルヴァン・バダンテールなのだと、一目見てわかった。
(綺麗な人……)
目元に微かに刻まれている皺や口元にある髭が年長者らしい落ち着きと威厳を醸し出している。
「初めまして、アレット嬢。君の夫となるシルヴァン・バダンテールだ」
彼は私の手を取ると、エスコートして馬車から下ろしてくれた。大きな掌は温かく、長い指にある剣ダコが手に当たる。
(ポールとは全く違う手……)
力強く、そして歳月を重ねた皺がある手。だけど不思議と、初めて会ったばかりの彼の手に安心感を覚えた。
伯爵令嬢のアレットは父親と継母と義姉から使用人のように扱われていた。唯一の味方だと思っていた幼馴染で片想いの相手でもあるポールは義姉と婚約してしまった。
アレットは深く傷つきながらも二人の婚約パーティに出席するのだが、そのパーティでは義姉がばらまいた嘘の噂を信じた令嬢たちがアレットを遠巻きで見ながら悪口を言っていた。追い打ちをかけるように義姉がまだお祝いの言葉をもらっていないと嘘を言えば、令嬢たちは義姉の味方をしてアレットを責めてくる。何を言っても誰にも信じてもらえないというストレスの極限に達してしまったアレットは、その日以来、声を出せなくなってしまったのだった。
そんなアレットのもとに、騎士団長を引退するシルヴァン・バダンテールと結婚せよという王命が届く。
シルヴァンは公爵家の当主であるが、年齢はアレットとは親子ほど離れた50歳。噂に聞くシルヴァンは年老いてもなお見る者の目を奪うほどの美貌を持つが、気難しく、これまでずっと独身を貫いてきた偏屈者だという。
しかし実際に会ったシルヴァンは、寡黙ながらも心優しい紳士だった。
「これまでよく頑張った。ここでは存分に甘えて生きなさい」
結婚式を挙げた日の夜、シルヴァンはアレットに温かな言葉をかけてくれた。その彼もまた心に深い傷を負っていることを知ったアレットは、彼を幸せにしようと誓う。
お互いを労わり合うアレットとシルヴァンの間には愛情が芽生え始めたものの、互いに相手の想いには気づいていないようで――。
編集部より
ミーティアノベルス書き下ろし作品!
長年片思いをしていた恋が破れ、追い打ちまでかけられたことで深く傷つき、声を失ってしまった令嬢・アレット。
王命により親子ほど歳の離れた元騎士団長・シルヴァンに嫁がされることとなったアレットですが、彼もまた心に傷を負っていることを知ります。
優しさと温かさを心に持つ二人ですが、相手を労り合うあまり向けられる愛情には気づけないようで……
王命による結婚から始まる、イケオジと虐げられ令嬢の両片思いの恋物語をぜひ、お楽しみください!