女神から与えられた余命一年で闇落ち予定の婚約者を救います - 束原ミヤコ
第1巻 内容紹介
「ルシル、ルシル……!」
赤く染まった手が私の頬に触れる。
生ぬるい涙が顔に落ちる。美しい紫色の瞳から、涙があふれている。
「……シェザード、なんてことを」
震える声で、アルタイル様が言った。
「死ぬな、ルシル……すまない、俺は……っ」
シェザード様は私の体を抱きしめる。
呼吸ができない。意識が遠のく。
私はシェザード様を抱きしめかえしたかったけれど、体を動かすことはできそうになかった。
深い後悔が胸を支配する。
私が――私が、もっと、しっかりしていれば。もっと、シェザード様と話をしていれば、こんなことにはならなかったのに。
シェザード様はどうなってしまうのだろう。
できればもう一度、やり直したい。
――私はどうなってもいい。
シェザード様を救いたい。
傍にいたのに、何もできなかった。
こんなことになるまで何もできず、何もしようとせずに、ただ見ていただけだった。
――好きだったのに。ずっと、好きだったのに。
ぷつん、と意識が途切れた。
痛みも苦しさもすべて消えた。まるでランプの明りを消したように唐突に、あたりが暗闇に包まれる。
何も感じない、見えない世界で、シェザード様の私を呼ぶ声が最後まで響き続けていた。
フラストリア公爵家のルシルは15歳の時にカダール王国第一王子シェザードと婚約をした。
王位継承権は弟王子のアルタイルにあり、第一王子であるにもかかわらずシェザードはフラストリア公爵家に婿入りする予定であった。
シェザードは王家の中で冷遇されており、粗野で乱暴な性格だった。そのせいで、ルシルは彼に惹かれていたにもかかわらず彼に嫌われていると思って親しくなることができず、優しいアルタイルとばかり過ごしていた。
王立学園を卒業する日、シェザードはアルタイルに刃を向けた。ルシルはアルタイルをかばい、凶刃に倒れてしまう。
死の淵でルシルは女神ノクティリアに頼み、シェザードのためにもう一度だけやり直すチャンスを与えられた。
「あなたの切なる願いに温情を与え、時を戻しましょう。けれど、同じ日、同じ時間にあなたは命を落とすでしょう。あなたの命には限りがある」
ルシルが命を落とした卒業式の一年前に時は戻り、限られた時間の中でシェザードと親しくなり、その心を癒やし、彼の運命を変えるのだと決意する。
編集部より
人気作品がミーティアノベルスに登場!
両親から不遇な扱いを受けている第一王子シェザードの婚約者となった公爵令嬢ルシル。
婚約者と親しくなることのできぬまま時を過ごしていたルシルは、学園卒業の日、シェザードの弟を庇って刺されてしまいます。
凶刃に倒れてなお、今度こそシェザードと向き合いたい願う公爵令嬢ルシル。女神の力を借りて時をやり直し、彼の運命を変えることを決意しますが――
電子書籍版限定書き下ろしでは、シェザードに出会う前の幼少期ルシルの話と、二人で泊った宿での朝の風景を収録。
WEB版を既読の方もぜひお楽しみください!