恋は愚かな協奏曲(コンチェルト)?! - 竹田有友己
内容紹介
整った美しい横顔に、思わず息をのんだ。
響板を閉じたグランドピアノを弾いていたのは、ふんわりと髪にウエーブがかった男性。白い長袖シャツに、上質そうなチャコールグレーのパンツをはき、大人の雰囲気を醸し出している。目元はほのかに憂いを帯び、しなやかな指先が鍵盤の上で踊っていた。
私はしばらく、天窓から降り注ぐ午後の柔らかな日差しに包み込まれている男性に見とれ、彼が奏でるピアノに心を奪われていた。
もっと聴いていたい。願わくは、この曲を弾いてみたい……。
とはいえ、ずうずうしく声をかける勇気はなく、それならば、と、私は頭の中に五線譜を描いた。フラットが一つの二短調。線の波間に音符を刻んでいく。
子どもの頃からそうだった。歩行者信号の音、救急車のサイレン。お茶碗がぶつかる音まで、すべて音階に置き換えていた。
一度聞いた曲は忘れなかった。すぐにピアノで再現したくなる。
私は時間を忘れ、彼が奏でる美しい音楽に夢中になっていた。
「なに勝手に弾いてるんだ」
声がしてハタと我に返ると、そこには久遠樹が立っていた。
家庭の事情でピアニストになる夢をあきらめた田村青葉は、子どもに音楽の楽しさを伝えたくて、帝都音楽大学の姉妹校、くすのき幼稚園で先生をしている。そんな青葉のもうひとつの顔は、ピンクのウイッグを着けた街角ピアニストの「アオ」。
ある日青葉は「アオ」として、大学の准教授で作曲家の樹の亡き父のピアノ曲を街で勝手に弾いてしまう。
樹は怒りながらも「アオ」のピアノに魅了されていき――。
編集部より
ミーティアノベルス書き下ろし作品!
家庭の事情でピアニストになる夢をあきらめた田村青葉は、子どもに音楽の楽しさを伝えたいと思い、幼稚園の先生として働いていました。
ある日、園児が帰った後のハーモニールームから聞き慣れない美しい旋律が聞こえ、覗いてみると、驚くほど顔の整った男性──久遠樹がピアノを弾いていました。
樹が弾いていた曲に惹かれた青葉は、『街角ピアニスト・アオ』という路上演奏家に扮してその曲を弾いていたところ、当人に出くわしてしまい……。
音楽界を舞台にした、住む世界が違い過ぎる二人の甘いラブストーリーをぜひお読みください!