明治時代の函館に転移したら、恋に落ちました - 時尾美かた

内容紹介
「い、痛い……」
全身に痛みを感じるのは、生きている証拠に違いない。
良かった、助かったんだと安堵していると、男性の声がした。
「気がつきましたか?」
ゆっくり視線を向けると、白衣姿の金髪の外国人男性が草むらにしゃがみ込み、心配そうに私を見つめていた。青い目をしたイケメンの彼はほぼ自然な日本語で、優しげな笑顔が憧れのハリウッド俳優に似ている。
「大丈夫ですか? どうかしました?」
彼の隣に肩を並べて屈んだ、高い髷が目立つ日本髪の女性も同じように声をかけてきた。ただし、黒い掛け襟に目立つ赤と紺の縞模様の和服の上に割烹着を着た彼女は、色白で面長の眉間に皺を寄せている。そして胸元に例の黒猫を抱いていた。
「あっ、その猫……」
私は羽飾りを持って逃げたこの猫を追いかけていたことを思い出し、慌てて上半身を起こす。
「痛っ!」
しかし少し動かした右足首に鈍い痛みがはしり、顔を歪ませ、ドレスの上から押さえてしまう。
「失礼」
すると男性は私のドレスの裾を少し上げて、足首の状態を確認する。思わず身構えてしまうが、白衣を着ているので医者だろうか。
大学の卒業旅行で函館に来ていた理沙は、散策中の洋館のバルコニーから落ち、気が付けば明治14年に転移していた。レンタルドレス姿だったことから噂の華族の姫と勘違いされ、怪我の応急処置をしてくれたアメリカ人医師ジョージの好意で彼の勤める診療所に手伝いを条件に住まわせてもらえることになった。
英会話が出来る理沙は外国人患者の対応をし、やがてジョージとの距離が縮まっていく。
嫉妬した診療所の娘ユキは母とともに理沙を目の敵にするが、その度にジョージが助けてくれる。そして北海道史にも名を遺すジョージの叔父に紹介されるほどの仲となるが、ジョージの婚約者だというユキに邪魔をされる。
明治時代の函館で様々な困難に立ち向いがらも、巡り合った純愛を貫こうとする恋のお話。
編集部より
ミーティアノベルス書き下ろし作品!
主人公は、ごく普通の女子大生・鶴巻理沙(つるまき りさ)。友人との卒業旅行で訪れた函館の旧公会堂で、レトロで素敵なドレスに着替えたまさにその時、友人が元カレのもとへ去ってしまい、いきなり置いてきぼりに……。
一人になった理沙でしたが、ドレスの羽飾りを盗んだ黒猫を追いかけるうちにバルコニーから転落してしまいます。目を覚ますと、そこは見知らぬ草むら。あるはずの建物はなく、助けてくれたのは金髪碧眼のイケメン外国人医師と、時代劇のような日本髪の女性でした。なんと理沙は、文明開化の音が聞こえる明治14年の函館にタイムスリップしてしまったのです!
現代から来たと説明できるはずもなく、ドレス姿のせいで「政略結婚から逃げてきた華族のお姫様」だと勘違いされてしまった理沙。彼女を助けてくれたイケメン医師・ジョージたちの診療所で、お世話になることになりますが……。
文化も常識も違う時代に、たった一人でやって来てしまった理沙の運命は、いったいどうなってしまうのでしょうか? ぜひ、本編をお読みください!
