黒薔薇と呼ばれた令嬢は婚約解消後、行き遅れの侍女長となりました - かのん

内容紹介
八年前よりも身長が高くなり、髪の毛が伸びて逞しくなったヴェルトルトの姿があった。
なんだか、不思議な感覚だった。
皆にとっては英雄でも、私にとってはかけがえのない友だ。
八年前のヴェルトルトの姿を思い出し、その姿が今のヴェルトルトの姿と重なっていく。
感情が、一瞬で八年前へと引き戻される。
別れた日のことを思い出し、そして、無事に帰って来たのだとそう思うと、目頭が熱くなる。
それを私はぐっと堪えた。
「……シェスター」
声が、震えていた。
「主役が、こんなところに来てもいいの?」
「……英雄は俺一人じゃないさ。皆英雄だ。許可は取った。だから、大丈夫だ」
「そう」
私は歩み寄ると、ヴェルトルトを見上げる。
昔は同じ身長だったというのに、今では見上げるほどになっていた。そしてその体のいたるところに怪我があるだろうことは、襟元や手を見れば分かる。
それを見て、私は呼吸を整えると言った。
「お帰りなさい」
社交界で「黒薔薇」と呼ばれるほど美しく、頭脳も明晰な侯爵令嬢のシェスターは、相手が浮気をしたので婚約を解消した。
それ以降の7年間、美しい髪をきっちりとまとめ上げ、眼鏡をかけて地味な姿をして、国王の一人娘であるナタリー王女に仕える侍女長として充実した日々を送っていた。
そんなある日、8年前に戦地へ旅立った幼なじみで親友のヴェルトルトが戦果を上げて、凱旋した。
英雄となって帰還した彼が、褒賞として国王の前でシェスタ―に求婚してきた。彼からずっと片思いをしていたと打ち明けられたシェスタ―は、驚きながらも嬉しく、心が複雑に揺れ動く。
時間をもらって返答することになったが、ナタリー王女の婚約者選定の準備が進む際、婚約解消してから一度も会ったことがなかった元婚約者が目の前に現れた。どうやら彼は何か企んでいるようで――。
編集部より
ミーティアノベルス完全書き下ろし作品!
かつて「黒薔薇」と称された才色兼備な侯爵令嬢シェスターは、婚約解消という過去を乗り越え、侍女長として充実した日々を送っていました。そんな彼女のもとに、8年ぶりに凱旋した幼なじみ・ヴェルトルトが現れます。
英雄となった彼から、国王の前で突然の求婚!そして明かされる、長年の秘めた片思いにシェスターの心は揺れ動きます。仕事に生きる道を選んだ彼女が、再び愛と向き合うことができるのか。一途に彼女を想い続ける騎士と、過去の因縁が絡み合う中で、シェスターが本当に掴み取る幸せとは何なのか。
貴族社会において、自らの道を切り開き、真の愛を見つける女性の物語。ぜひ、シェスターの行く末を見届けてください!