灰被りの令嬢はクールな公爵様から一途に愛されています - 岬えいみ
内容紹介
「公爵様が来られたぞ!」
群衆の中の誰かが、上擦った声を上げる。
期待の眼差しを受けて堂々と現れたのは、ひときわ大きく立派な軍馬に跨り、装飾の入った黒鎧を身に着け、豪奢な赤マントをなびかせた、別格の存在感を放つ人物――。
目にするのは初めてだが、間違いない。あれが今、この地を治めている公爵、その人だ。
年齢はおそらく二十代後半。青年と呼ばれる若さでありながら、威厳のある態度。鎧に包まれていても、鍛えていることがわかる凛々しい体格。すっと通った鼻筋に、口元はシャープに引き結ばれて、荘厳な金髪がふわりと風に揺れている。
「向かうところ敵なし! 氷の金獅子、ウルベルク公、万歳!」
「あぁ、なんてステキなの……まさに輝ける貴公子。我が国の至宝ね!」
街の者たちの称賛の声が飛び交ったが、迫力にのまれているクレアの耳には届かない。
公爵は兜を被らず、目元を装飾用の黒い仮面で覆っていた。素顔を見せないのは、威圧感を与えるためだろうか。その姿は神々しくも冷たく、悪魔的にも映る。
(あれが……私たちを支配している、当代公爵様……)
強烈なカリスマ性に、自然と目を奪われてしまう。やがてその後方、部隊の後から引き連れてこられた捕虜の集団に気づいて、思わず息をのんだ。
銀色の髪とすみれ色の瞳を持つ少女クレアは、北欧にある炭鉱町の総督令嬢として幸せに暮らしていた。だが突如、公爵家への謀反の疑いをかけられ、父の命は断たれてしまう。
父の部下であった男爵の家に引き取られたクレアは、使用人として虐げられる日々を送っていた。そんな中、代替わりしたという新公爵から通達が届く。都での労働を命じる内容に、男爵夫人は実の娘を出すことを嫌がり、クレアを派遣することにする。
都に赴いたクレアは、そこでも真摯に勤めるうち、とあるハンサムな男性と出会う。
「――おまえ、外地から来た者か? 名はなんという?」
高貴な雰囲気を漂わす金髪碧眼の彼は、なぜかクレアのことを気にかけてくれて――。
編集部より
ミーティアノベルス書き下ろし作品!
厳寒の大地に根ざす炭鉱の町「ノースグリフ」。少女・クレアは自治区として認められていた町で、鉱山の総督だった父のもとに生まれました。
しかし父は謀反の疑いを掛けられた挙げ句無慈悲に命を奪われ、母も心を壊してしまいます。
それから幾年かが過ぎ、かつて父の部下だった男の家で虐げられながらも暮らしていたクレアは、公爵家の労働力を求める令状に、下働きとして送り出されることになりますが――
北欧を舞台にした純白のシンデレラ・ストーリーをぜひお楽しみください!