炎帝に嫁ぎましたが、どうやら小動物だと思われているようです - 束原ミヤコ
第1巻 内容紹介

「お前が、王国から来た人間か」
低くよく通る声が、私を呼ぶ。
高圧的というわけでもなければ、優しげなわけでもない。淡々とした声だ。精悍で美しい顔立ちだけれど、その表情もあまり変わらない。怒っている訳でもなければ、微笑んでいるわけでもない。
何を考えているのか――わからない。
どんな方なのかまだわからないのに、見た目が好みすぎて勝手に胸が高鳴ってしまう。
落ち着くのよ、私。目の前の男性の見た目が、理想通りだからといって――私の役割を、忘れてはいけない。
私は膝を曲げて、スカートを摘んで自国に則った礼をした。
「はじめまして。アンネリア・ユーヴェルハイムと申します、ジゼルハイド・オグニアス様」
謁見の間の椅子は、煌びやかな広間に置かれている。天井からは四角いランプがいくつも吊り下がっていて、蝋燭も立てられていないのに光っている。
ジゼルハイド様の座る椅子の背後の壁には大きな円形の格子窓があり、複雑な模様と共にこちらも鳥の姿が描かれている。まるで、月の上を優雅に鳥が舞っているかのようだった。
柱も壁も装飾が多い。黒と、金と、赤。
そんな色に取り囲まれた空間に立っていると、少々目眩を感じる。
「お前たちは、……カブトムシを食べるのか?」
「食べないわよ!」
――これが私と、ジゼルハイド様の出会いである。
「炎帝ジゼルハイドの花嫁になって欲しい」
婚約者もなく結婚の予定もない公爵令嬢アンネリアは、国王陛下の頼みで隣国の皇帝に嫁ぐことになった。
隣国は竜人たちの暮らす国。竜人は人よりもずっと強い存在なのだと言われている。
その中でも炎帝と呼ばれている皇帝ジゼルハイドは、炎を纏った恐ろしい竜だという。
アンネリアの理想の男性は、体格の良くて逞しくて強い人。
炎帝ジゼルハイドはまさにアンネリアの理想通りの逞しい美丈夫で、噂とは違いアンネリアを溺愛してくれるようになる。それはもう必要以上に優しく、慎重に。
(もしかして、私はジゼルハイド様に小動物だと思われているのではないかしら……!)
小動物として扱われていることに気づいたアンネリアと、アンネリアのことが可愛くて仕方ない竜人の皇帝の、異種族勘違いすれ違いラブコメディ。
書下ろしでは、ジゼルハイドのアンネリアに対する思いを、少しだけ垣間見ることができます。
編集部より
人気作品がミーティアノベルスに登場!
竜人という人と異なる種族の皇帝に嫁ぐこととなったアンネリア。種族の異なる相手との婚姻で悲壮感に暮れているかと思いきや、『炎帝』ジゼルハイドは彼女の理想そのもので……
しかしジゼルハイドの必要以上に優しく慎重な扱いに、アンネリアはもしかして自分は「小動物だと思われている」のではないかと悩み……?
「お前たちは、……カブトムシを食べるのか?」から始まる二人の生活は、「あ、これは絶対面白いラブコメディだな……!」と予感させます(そしてその予感は的中するでしょう!)。
電子書籍版では限定の書き下ろしを収録! WEB版を既読の方も、珠玉の異類婚姻ファンタジー・ラブコメディをぜひお楽しみください!