電子書籍「ネット文庫星の砂」

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「身代わり花嫁、明治の世に咲く」 - 麻生かえで

身代わり花嫁、明治の世に咲く - 麻生かえで

内容紹介

「凛、あんたに見合いに行ってもらうよ」
「わ、私が?」
「どうしても今日の見合いを取りやめることはできないんだよ。ご主人様が言ってただろ。とりあえずあんたを身代わりに立てろって」
 驚きのあまり、声も出なかった。
「凛なら、うまくやれると思うんだ。頼んだよ」
 その言葉にドキッとした。お貞さんは私を子どもの頃から知っている。母の幼馴染みで、四年前に母が病死した時、身寄りのない私をこの倉橋家で一緒に働けるよう、口利きをしてくれた。お貞さんに頼まれたら、私は断れない。
 俯く私の頭をそっと撫でると、お貞さんは握った手に少し力をこめた。そのまま書斎を出ると、お嬢さまの部屋へと連れていかれ、今日の見合い用にと仕立てたばかりの着物を纏うことになった。
普段は女中の仕事着である、綿の藍色の着物しか着ていない私が、薄い黄色を基調とし、桃の花を模した金糸の刺繍が裾と振袖にもあしらわれた上等な絹に袖を通す。その柔らかな手触りに緊張しながらも、心地良さを感じてしまう。
お貞さんに初めての化粧を施されて鏡を見ると、紅を引いた顔が自分ではないように思えた。髪を結われ、着物の柄に合わせた桃色と金の簪を挿す。こうして、格好だけは取り繕ったお嬢さまが出来上がった。
 そして私は、心の準備も何もできないまま、ご主人様と共に馬車に乗り、見合いの席が設けられている料亭へと向かったのだった。

  
 貿易商を営む裕福な倉橋家で下働きをしていた藤谷凛は、見合い当日に失踪した倉橋家の一人娘、紗紀子の身代わりとして、子爵家後継者の橘秋生と見合いをする羽目になった。
 見合いの場で秋生から「この見合い、断らせていただくつもりです」と告げられた紗紀子(凛)。ほっと安心したのもつかの間、1カ月後に式をおこなうことが決まってしまった。経済的な支援を要する子爵家と華族との縁戚を望む倉橋家の利害が絡み合う政略結婚であり、それは凜が紗紀子として代わりに嫁ぐことでもあった。罪の意識に苛まれながらも、身代わりがばれないように懸命に務めを果たそうと生活してく中で、凜は次第に秋生のやさしさに惹かれて、決して望んではいけないことを思ってしまうようになった。
 そんな矢先、秋生が大怪我を負ってしまう――。

編集部より

 ミーティアノベルス書き下ろし作品!
 舞台は文明開化に沸く明治の世。貿易商の屋敷で下働きとして暮らす少女・凛は、ある夜明け前、屋敷のお嬢さまが大事な見合いを前に家出をする衝撃的な場面に遭遇してしまいます。
「お前が身代わりになれ」――主人からの非情な命令。お嬢さまと背格好が似ているというだけで、凛は華族の青年との見合いに赴くことになりました。
 ただ黙っていればいい、人形のように頷いていればいい。そう思っていた凛の前に現れたのは、公家の血を引く子爵家の青年・橘秋生。洋装の似合う美しい姿とは裏腹に、その瞳にはどこか暗い影が宿っていました。
 突然〝身代わり花嫁〟に仕立て上げられた凛の運命は……? 続きはぜひ、本編をお楽しみください!
 

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